聖書に出てくる植物 「なつめやし」

       
  • 2024/10/11
  • 最終更新日:2024/10/11
ナツメヤシ

こんにちは、ハトコです。
聖書の中心的な舞台であるイスラエルを代表する作物は次の7つで「小麦、大麦、ぶどう、いちじく、ザクロ、オリーブ、なつめやし」です。今回はなつめやしを取り上げます。
聖書箇所は申命記8:7-8節です。

それはあなたの神、主があなたを良い地に導き入れられるからである。そこは谷にも山にもわき出る水の流れ、泉、および淵のある地、
小麦、大麦、ぶどう、いちじく及びざくろのある地、油のオリブの木、および蜜のある地、…
申命記8:7-8節

ここに「なつめやし」の固有名詞はでてきませんが、最後の「蜜」とあるのがなつめやしです。


ハトコ
Writer Profileハトコ

牧師の家庭に生まれる。田舎でおとなしい子供時代を過ごしたが、高校卒業後に大阪に住んだことで性格が外交的に変わる。大阪の教会で牧師が1か月にわたり語ってくれた十字架のメッセージを聞いて明確に聖書の福音が解るようになった。好きなことは「掃除」「イエス様に従うこと」。苦手なことは「整理整頓」「ホラーやスプラッター系全般」。(「掃除」と「整理整頓」は別物です!)。新生宣教団職員。

 

なつめやしとは

「なつめやし」は、聖書の訳によっては「しゅろ」と表記しているものもあります。日本にはかつてヤシ科の植物が「和じゅろ」しかなかったので、「しゅろ」と訳されてきたのですが、実は違う植物です。この本文では本来の「なつめやし」とさせていただきます。

オアシスこの名前は、幹がヤシに似ており、実が中国原産のなつめに似ているためについたものです。属名「フェニックス」は植物学の初期につけられたもので、ギリシャ語で赤色を指します。旧約聖書が書かれたヘブル語では「ターマル」と言います。
塩分に強く乾燥地帯でも根を深く張り、地下30mにもなり地下水まで達します。オアシスではさらによく茂り、なつめやしが多く茂っているところにはオアシスがあると言われ、それによって隊商は遠くからでもオアシスを見つけることができました。聖書で最初になつめやしがでてくるのは出エジプト記15章27節です。エジプトを脱出し、砂漠を旅したイスラエルの民は、エリムというオアシスに辿り着きます。そこには12の泉と70本のなつめやしがあり、イスラエルの民はそこに宿営を張りました。

こうして彼らはエリムに着いた。そこには水の泉十二と、なつめやしの木七十本があった。その所で彼らは水のほとりに宿営した。
出エジ15:27

 

蜜としてのなつめやしの実、デーツ

 
ナツメヤシ最近ではなつめやしの実は、スーパーフルーツとしても評価され、日本の市場でも「デーツ」の名前でよく見かけるようになりました。ただ、旧約の時代のイスラエルでは、ドライフルーツとしてよりも、「デーツシロップ(蜜)」として生活の中で使用されていたようです。一本の木に12房ほどの実を実らせますが、なんと一房になる実は1,000個にもなります。一本の木から12,000個もの実が取れるわけです。この実から取れるシロップを日常的に使うため、ユダヤ人はなつめやしを普通に「蜜」と呼んでいたのです。聖書で「蜜」という時は蜂蜜かなつめやしなのです。

 

イスラエルでのナツメヤシが象徴するもの

正しい者の象徴

ナツメヤシなつめやしの木は高さ20~30m、幹の太さは50~80cmにもなります。ヤシに似た葉の長さは4~7m。巨大でまっすぐに立ち優雅に葉を揺らすその姿は、勇壮で美しい光景です。聖書の詩篇ではこの真っすぐな姿からか「正しい者」の形容に使われています。

正しい者はなつめやしの木のように栄え、レバノンの香柏のように育ちます。
詩篇92:12

多産、祝福の象徴

なつめやしはヘブル語ではターマルといいます。聖書にはタマルという名前の女性が多く出てきます。古代イスラエルでは、女性の幸せは子どもの数で測られました。子が多いほど神の祝福を受けているとされたのです。なつめやしは多くの実をつけるので、たくさん子を生むようにという願いを込めて、親が娘に名付けるよくある名前でした。雅歌には女性を愛でる内容でも出てきます。

その頭は純金です。髪の毛はなつめやしの枝で、烏のように黒く、
その目は、乳で洗われ、池のほとりで休み、水の流れのほとりにいる鳩のようです。
雅歌5:11-12:新改訳第3版


あなたはなつめやしの木のように威厳があり、あなたの乳ぶさはそのふさのようだ
雅歌7:7

神の臨在の象徴

ソロモン神殿ソロモン王の時代に荘厳な神殿が建設されますが、その神殿の彫刻には多くのなつめやしの姿が彫られました。

彼は宮の周囲の壁に、内外の室とも皆ケルビムと、しゅろ(なつめやし)の木と、咲いた花の形の彫り物を刻み、
1列王記6:29


その二つのとびらもオリブの木であって、ソロモンはその上にケルビムと、しゅろ(なつめやし)の木と、咲いた花の形を刻み、金をもっておおった。すなわちケルビムと、しゅろ(なつめやし)の木の上に金を着せた。
(1列王記6:32)その他参考聖句・同6:35、7:36

フェニックスなつめやしのギリシャ語名は「フェニックス」です。不死鳥のことをフェニックスといいますよね。最初に述べたように、この名前は実が赤いことからも名付けられましたが、なつめやしの木は、切り倒した後の切り株を火で燃やしても、その切り株から再び芽を出して再生します。まるで、火の中から復活する「不死鳥」のようです。不死鳥(フェニックス)という名前は聖書的観点から見ても非常に興味深いと思います。なぜならフェニックス(なつめやし)は、燃える火のような十字架の苦しみを通り、死からよみがえられたイエス・キリストを暗示しているからです。
フェニックス、このなつめやしは聖書では復活と勝利の象徴とされています。

 

なぜ人々はなつめやしの葉でイエスを迎えたのか。

なつめやしの葉でいちばん有名な聖書箇所は、新約聖書に出てくるイエス・キリストのエルサレム入場です。

聖句その翌日、祭にきていた大ぜいの群衆は、イエスがエルサレムにこられると聞いて、
しゅろ(なつめやし)の枝を手にとり、迎えに出て行った。そして叫んだ、「ホサナ、主の御名によってきたる者に祝福あれ、イスラエルの王に」。ヨハネ12:12-13

この時、イエスは十字架にかかるためにこのエルサレムに入ったのですが、迎えた民衆の受け取り方は全く違いました。これまで数々の奇跡を行ってきたイエスを、ユダヤの民衆は、自分たちをローマの圧政から救い出してくれる約束された救世主ではないかと思っていたのです。昔からの預言通りに、イエスがロバの子に乗ってエルサレムに入るのを見た人々は、自分たちも預言書に書いてあるように手に手になつめやしの葉を取って叫びます。「ホサナ!主の御名によって来たるものに祝福あれ!イスラエルの王に!」。

シオンの娘よ。大いに喜べ。エルサレムの娘よ。喜び叫べ。見よ。あなたの王があなたのところに来られる。この方は正しい方で、救いを賜り、柔和で、ろばに乗られる。それも、雌ろばの子の子ろばに。
ゼカリア9:9 新改訳第3版


主のみ名によってはいる者はさいわいである。われらは主の家からあなたをたたえます。
主は神であって、われらを照された。(なつめやしの)枝を携えて祭の行列を祭壇の角にまで進ませよ。
詩篇118:26-27

エルサレム入城人々はイエスを自分たちの政治的な王、救世主として大歓迎したのです。なつめやしの葉はイスラエル人にとっては勝利の象徴です。それを振りながら、自分たちの解放を願ってイエスを迎え入れたのです。それは、もし、イエスが先頭に立って戦ってくれるなら、自分たちはついていくぞ!という意志表示だったわけです。
けれども政治的・軍事的勝利を期待した群衆の期待は裏切られます。なぜなら、イエスの目的は民衆とは全く違っていたからです。イエスは彼らが期待したような行動は取りませんでした。イエスがエルサレムに入られた目的は、ご自分が人類の罪のために犠牲になり、十字架にかかること、そして贖いの業(わざ)を成し遂げて復活することだったからです。自分たちの期待通りにいかないことで、群衆の歓呼は、「イエスを十字架につけろ!」という叫びに変わります。

イエス・キリストとなつめやし

神の神殿

復活イエス・キリストはユダヤの宗教指導者の嫉妬と彼らに先導された群衆の声で十字架につけられます。しかし3日後に不死鳥のごとくよみがえられました。フェニックス、なつめやしが先程のソロモン神殿や将来の神の国における神殿内部に彫り込まれたというのは、まさに復活のキリストを象徴しているのです。
イエスご自身も自分のことを神殿だと言っています。

イエスは彼らに答えて言われた、「この神殿をこわしたら、わたしは三日のうちに、それを起すであろう」。
そこで、ユダヤ人たちは言った、「この神殿を建てるのには、四十六年もかかっています。それだのに、あなたは三日のうちに、それを建てるのですか」。
イエスは自分のからだである神殿のことを言われたのである。
ヨハネ2:19-21

これは、キリストが、ご自分が死んでも3日目によみがえるということを言っておられるのです。

さらに、イエス・キリストを救い主と信じ、神の聖霊が内に宿るようになったクリスチャンも神の神殿とされています。

あなたがたは神の宮であって、神の御霊が自分のうちに宿っていることを知らないのか。
もし人が、神の宮を破壊するなら、神はその人を滅ぼすであろう。なぜなら、神の宮は聖なるものであり、そして、あなたがたはその宮なのだからである。
コリント人への第一の手紙3:16-17

私たちのうちにも復活の勝利者であるキリストが彫り込まれているんですね。

神の国でなつめやしの枝を振る

旧約の預言者エゼキエルは幻で神の国の神殿を見ましたが、新約時代の使徒ヨハネも神の黙示によって、数え切れない群衆がなつめやしの枝を振ってイエスを称えている光景を見ました。それは、今度こそ本当に全世界の王となられたイエスを称える光景でした。

その後、わたしが見ていると、見よ、あらゆる国民、部族、民族、国語のうちから、数えきれないほどの大ぜいの群衆が、白い衣を身にまとい、しゅろ(なつめやし)の枝を手に持って、御座と小羊との前に立ち、
大声で叫んで言った、「救は、御座にいますわれらの神と※小羊からきたる」。
※小羊とは、イエス・キリストのこと。イエスは神への捧げ物として屠られる犠牲となられた。
ヨハネの黙示録7:9-10

この群衆の中に、イエスを自分の救い主と信じるすべての人々が参加できるのです。

まとめ

いかがでしたか?
最近はスーパーフードとしてもよく食べられているデーツ。なつめやしは栄養価が高いだけでなく、聖書ではその風貌から「正しい者」を表し、また神殿内部に彫り込まれて、イエス・キリストの復活の勝利と栄光を表すなど、意外と深い隠された意味を持った植物だったのですね。
将来、私たちが神の国に入る時、多くのクリスチャンとともに、なつめやしの枝を振りたいと思います。その時私たちは一緒にきっとこう叫ぶことでしょう。

「救いは、御座にある私たちの神にあり、小羊にある。」
アーメン。賛美と栄光と知恵と感謝と誉れと力と勢いが、永遠に私たちの神にあるように。アーメン。
ヨハネの黙示録7:10,12(新改訳第3版)

ハトコでした。
み言葉の( )は筆者補足


参考:『聖書の植物』梶田季生 イーグレープ
『聖書の世界が見える(植物篇)』リュ・モーセ著 Durano Japan
『イスラエルに見る聖書の世界 旧約聖書編』ミルトス編集部

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