こんにちは、ハトコです。
今回は、聖書に出てくる植物について見てみたいと思います。聖書の中心的な舞台であるイスラエルは、三大陸の接点に位置し、地形や気候が変化に富んでいるため、多種多様な動植物が見られます。聖書にも色々な植物の名前が出てきますので、何回かに分けてご紹介していきたいと思います。
牧師の家庭に生まれる。田舎でおとなしい子供時代を過ごしたが、高校卒業後に大阪に住んだことで性格が外交的に変わる。大阪の教会で牧師が1か月にわたり語ってくれた十字架のメッセージを聞いて明確に聖書の福音が解るようになった。好きなことは「掃除」「イエス様に従うこと」。苦手なことは「整理整頓」「ホラーやスプラッター系全般」。(「掃除」と「整理整頓」は別物です!)。新生宣教団職員。
イスラエルを代表する作物は次の7つで「小麦、大麦、ぶどう、いちじく、ザクロ、オリーブ、なつめやし」です。これは聖書の中で、イスラエルの民に約束された祝福の土地カナンの説明にも出てきます。
それはあなたの神、主があなたを良い地に導き入れられるからである。そこは谷にも山にもわき出る水の流れ、泉、および淵のある地、 小麦、大麦、ぶどう、いちじく及びざくろのある地、油のオリブの木、および蜜のある地、 あなたが食べる食物に欠けることなく、なんの乏しいこともない地である。 申命記 8:7-9 口語訳
※8節の「蜜のある」と言うのは、ユダヤの伝承によると「なつめやし」のことだそうです。
今回はこの中の「いちじく」について見たいと思うのですが、実は「いちじく」と良く似た「いちじく桑」という木もありますので、この2つについてご紹介します。
聖書に植物の固有名詞として最初に出て来るのがいちじくです。みなさんもご存知かもしれませんが、エデンの園で、アダムとエバが食べてはいけないと禁じられた「善悪を知る知識の木」の実を食べて、神さまから隠れたときに、自分の裸を隠すために使ったのがいちじくの葉でした。
すると、ふたりの目が開け、自分たちの裸であることがわかったので、いちじくの葉をつづり合わせて、腰に巻いた。創世記 3:7 口語訳
先日テレビの番組で、和紙を作る外国人を取り上げていました。その人は、和紙を作るのに必要な「楮(こうぞ)」という繊維の多い植物が自国では手に入らないため、試行錯誤の上、繊維の多いいちじくの葉を使っていると言っていました。
アダムとエバはエデンの植物をよく知っていたので、多くの植物の中でも大きくて、丈夫で長持ちしそうなこの葉を選んだのかもしれませんね。
新約聖書の中でいちじくの木にまつわる有名なエピソードは、イエス様が呪ったいちじくの木が枯れたお話です。
そして、葉の茂ったいちじくの木を遠くからごらんになって、その木に何(パーグ)かありはしないかと近寄られたが、葉のほかは何も見当らなかった。いちじく(エテナ)の季節でなかったからである。 そこで、イエスはその木にむかって、「今から後いつまでも、おまえの実を食べる者がないように」と言われた。弟子たちはこれを聞いていた。
マルコによる福音書 11:13-14 口語訳
※( )は補足
いちじくは、夏の果物ですが、イスラエルのいちじくは年に5回実をつけます。初めの実は4月頃に葉が出始めると同時につける小さな実で「パーグ」と言います。そしてその後、夏の暑い時期に「エテナ」という甘い実を順に4回つけるのです。
イエス様がいちじくを呪ったのは、十字架にかかる過ぎ越しの祭りの頃で4月頃です。ですので、いちじくの実は「パーグ」がなっているはずでした。ところがなっているはずの「パーグ」は見当たりません。実がなく葉だけがついているこの木は明らかに問題のある木でした。
「パーグ」は、食べ物の少ないこの時期に裕福な主人が、貧しい小作人たちのために自由にとって良いとされていた貴重な食物でした。イエス様はパーグをつけていないこの木を、貧しい者たちに無関心なエルサレムの指導者たちの霊的状況として象徴的に示し、イエス様をメシアとして受け入れない問題のあるエルサレムに重ね合わせ、その滅亡を示すために、この問題あるいちじくの木を枯らすことで、弟子たちへの視聴覚教材としてお使いになったのです。ただ、弟子たちはこの時その意味をまだ理解してはいませんでしたが…。
もう一箇所、新約聖書で「いちじくの木」が出てくるのは、イエス様が公生涯として伝道を始めるときに弟子たちを選び、呼び集めたときです。
イエス様のことを疑っていたナタナエルという人に、イエス様が「あなたは本物のイスラエル人だ。なぜなら、君が“いちじくの木の下にいた”のを見たから」という場面です。これもいちじくがイスラエルでどういう位置づけかわかると納得がいきます。
イスラエルの乾季は日差しが強く太陽の下では息をするのも苦しいくらいですが、木陰に入るととても過ごしやすくなります。当時、小さな田舎町などではユダヤ教のトーラーをレビ(教師)から学ぶのに会堂が無いところが多かったので、いちじくの木の木陰が学び舎でした。この時代「いちじくの木の下にいた」という表現は、トーラーを熱心に学んでいるという意味も表したのです。
ですので、イエス様がナタナエルに「あなたがいちじくの木の下にいたのを見た」というのは、「あなたが神の国を熱心に求めているのを私は知っているよ」と言われたのと同じなのでした。ちょっと洒落たスカウトではないでしょうか。
聖書には「いちじく桑」も出てきます。この2つは似ていますが、違う木です。いちじく桑がいちじくに似ているので、こう呼ばれています。「いちじく桑」は非常によくある木で、ふんだんに建築木材として使われたことが旧約聖書の列王記第一10:12などから分かります。また、平地の麦畑に多く栽培されていて、乾季にいちじくに似た小さな実をつけますが、いちじくほど甘くはありません。ですが、この木に昇って、小さな実に針で穴を開け、そこにオリーブ油を塗り込むといちじくの「エテナ」と同じような甘い実になるそうです。聖書のアモス書7章14節には「いちじく桑の栽培」という職業が出てきます(新改訳等)。遊牧の羊飼いたちは雨季の緑が多い時期は放牧をし、青草の乏しい乾季の間は、麦畑に羊を放牧して麦の切り株を与えながら、この仕事をして生計を立てていたそうです。これがいちじく桑の栽培の仕事でした。
新約聖書のいちじく桑で最も有名なのが、この木に登った取税人ザアカイのお話です。当時話題の人だったイエス様がエリコの町にやってきました。多くの人が集まりイエス様を取り囲んでいます。ザアカイの職業は、イスラエル人から税金を取り立て、ローマに収める「取税人」で、同胞のイスラエル人からは売国奴と言われ嫌われていた職業でした。その上ザアカイは背が低く、群衆に阻まれイエス様を見ることができません。人々は嫌いなザアカイに道を開けたりもしません。でも、どうしてもイエス様を見たいザアカイ。高い木に登れば見えるかもしれない…。
ところで、ザアカイが住んでいたエリコの町はしゅろ(なつめやし)の木が多く、しゅろ(なつめやし)の町とも呼ばれていました。しゅろの木が多いこの町で、ザアカイはどうして高いこの木ではなく、いちじく桑に登ったのでしょうか。
取税人はいわばお金持ちです。嫌われているとはいえ、顔が知られていますし、メンツもあります。この自分が木に登るなんて…。ところで、いちじく桑にはたいてい何人かの羊飼いたちが登って実の世話をして働いているものでした。葉っぱも茂っていて大きく、隠れるのにも最適です。そう、他に登っている羊飼いもいる! 目立つことなく登ることができたのが、いちじく桑の木だったのです。
しかし、その木の真下にイエス様が通りかかった時、驚くことが起きました。
イエスは、その場所にこられたとき、上を見あげて言われた、「ザアカイよ、急いで下りてきなさい。きょう、あなたの家に泊まることにしているから」。ルカによる福音書 19:5 口語訳
隠れたつもりのザアカイ。しかし、イエス様は、他の羊飼いたちではなく「ザアカイ」と名指しで呼ばれました。初対面です。なぜ自分の名前を? ザアカイは驚いたことでしょう。ちょっと想像してみてください。もし王様があなたの職場や住んでいる町に来られ、人々の中に紛れていたあなたに向かい、「〇〇さん、あなたの家に泊まることにしていますよ」と突然言われたどうでしょう! びっくり仰天ですよね。
いちじくの木の下のナタナエルもそうでしたが、イエス様はあなたを個人的に知っておられるお方です。もし、あなたがこのときのザアカイのように、人目を避けて隠れていたとしても、神様は優しくあなたの名前を呼んでくださる方なのです。
イエスは彼に言われた、「きょう、救がこの家にきた。この人もアブラハムの子なのだから。 人の子(わたし)がきたのは、失われたものを尋ね出して救うためである」。ルカによる福音書 19:9-10 口語訳
※( )は補足
いかがでしたか。「いちじく」も「いちじく桑」も聖書には頻繁に出てきて、人々の生活に密着していました。いちじくの実は薬として出てきたり、洋服の装飾品にその形が取り入れられたりもしています。また、詩の中に出てくるときには繁栄を意味するそうです。イスラエルにおけるそれぞれの植物の特性や気候などの関係を知って聖書を読むと、また違った趣や発見があるかもしれませんね。次回も別の植物を紹介したいと思います。
ハトコでした。
参考:『聖書の世界が見える(植物篇)』リュ・モーセ著。在日イスラエル大使館サイト。『聖書大辞典』新教出版社。他
・クリップアートを使わせていただきました christiancliparts.net/(キリスト教クリップアートのサイト)
●こちらの記事もおすすめ
Copyright © 新生宣教団 All rights reserved.